久々にゲーム業界に復帰したRPGジャンルの重鎮リチャード・ギャリオット氏。先月50歳になったばかりの彼だが,まだまだ夢は膨らみ続けているようだ
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RPGジャンルの基礎を築き上げた「Ultima」シリーズの生みの親として知られるゲーム業界の重鎮,リチャード・ギャリオット(Richard Garriott)氏が,GDC Europe最終日の基調講演に登壇した。現在を「RPG第3期」と捉えて,自身のソーシャルゲーム市場での新たな動きを報告した。
ギャリオット氏といえば,古くからのゲーマーにはすっかりお馴染み,若い世代のゲーマー達も一度や二度は耳にしたことのある名前のはず。1980年,弱冠18歳のときに「Akalabeth: World of Doom」でゲーム業界にデビューし,1982年の「Ultima: The First Age of Darkness」から1999年の「
Ultima IX: Ascension」に至るまでのUltimaシリーズで,常にゲームプレイやグラフィックス面で業界最先端に立ち続けただけでなく,1997年の「
Ultima Online」では,MMORPGというジャンルを切り開いたという功績の持ち主。短命に終わった2007年の「
Richard Garriott's Tabula Rasa」を最後にゲーム業界からは遠のいており,スカイラブ計画に携わった宇宙飛行士の父を持つことからか,実際に宇宙旅行を体験してみたり,南極から海底まで,さまざまな冒険談でも知られる人物である。
そんなギャリオット氏は,今回の基調講演で「The 3 Grand Era of RPG」という講義を行った。それによると,おおまかに1980〜2000年までを第1期の「Solo Player Gaming」,2000〜2010年までを第2期の「Massively Multiplayer RPG」,そして2011年以降の現在を第3期となる
「Social RPG」の時代と区分し,今後はモバイルやソーシャル・ゲーム市場で本格的なRPGが生み出されて,やがて主流になっていくことを示唆した。
ただ,現時点でも「
The Elder Scroll V: Skyrim」のようなシングルプレイヤー用RPGは脚光を浴びているため,ソロ専用RPGやMMORPGが過去の遺物になってしまったとは言い難く,ギャリオット氏は,あくまでも自分の進化の過程を主軸に見たものとしていたが,実は,現在ギャリオット氏は,
Portalariumという,ソーシャルゲームを中心にした新しいゲーム開発チームを率いており,新たなゲーム市場の開拓を虎視眈々と狙っている。
実際,MMORPGの場合,すでに欧米においても月額制のビジネスモデルが頭打ちになっているのは確かであり,ギャリオット氏は「Ultima Onlineは,たった2年でソロゲーム時代のUltimaシリーズの収益を獲得してしまうほどになったが,実際に何十時間も遊ばないとゲームの面白さが分からず,それに対して毎月の対価を払わせようというのは,消費者にとってはとんでもないビジネスモデルである」とする。Tabula Rasaでも自分なりのビジョンはあったらしく「国際化に惑わされてパブリッシャの意見を汲まなければ,もっと革命的なゲームになっていた」と話していた。
そうした経験も含め,さまざまなアドベンチャーを終えたギャリオット氏も,今年で50歳となる。こうした節目の年に,Portalariumという新天地で,過去に経験のないジャンルでのゲーム開発に挑むわけだ。すでに同社は,カジノゲームを下請けでリリースするなど,6年で1本しか出さなかったTabula RasaのDestination Games時代の反省を踏まえて,活発な動きを展開しているという。
ソーシャルゲーム市場はFree-to-Play方式でユーザーには負担がなく,今回のGDC Europeでは何度か耳にした「Asynchronous Play」(遊ぶたびに違う体験をするというソーシャルゲームの素晴らしさを例えるバズワード)の魅力に惹かれ,自らも第3の波に飛び込んだというわけである。
ギャリオット氏は,講演の最後で,「FarmVilleやCityVilleのようなソーシャルゲームの要素は,釣り,建築,耕作,売買,クッキングなど,Ultima Onlineの持っていた非戦闘部分のコンセプトとあまり変わっていない」と話し,この分野はまだまだ開拓が可能だと力説する。そして,今後のプランとしてPortalariumが取り組んでいるのが,「
Ultimate Collector: Garage Sale」という新たなゲームである。
その内容については詳しく触れられなかったものの,ギャリオット氏によると,「上記のようなさまざまな活動をゲーム内で行い,自分が作り出したものや見つけたものを,オンライン上で売買して仲間を広げていくゲーム」になるとのことである。Ultimate Collector: Garage Saleは,いわばPortalariumがソーシャルゲーム市場に参入するテストであり「まずは小さなゲームでノウハウを築く」ことに重点を置いているようだ。
なんと,一見派手に見える彼の人物像を映像で暴き出すドキュメンタリー映画「Man on the Mission」が,近日劇場公開されるという
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また,現在はまだコンセプトのみながら,ギャリオット氏は,いつか「
Lord British's Empire」という本格的なRPGを,ソーシャルゲーム市場で展開したいという夢を語る。まさしく,このLord British's Empireは,30年以上もRPG一筋の道を歩んできた奇才,ギャリオット氏の集大成となるものかもしれず,今後のPortalariumの活動が,多くのファンに注目されていくことを願うばかりだ。