一定の年齢以上のPCゲームファンなら,2000年前後に主に海外で人気を博した「Thief」というシリーズに聞き覚えがあるかもしれない。日本語版こそ発売されなかったものの,一人称視点のステルスアクションというシステムが話題となった。
その最新作となる
「Thief」(
PC /
PlayStation 4 /
PlayStation 3 /
Xbox 360)が,スクウェア・エニックスから2014年6月12日に発売された(
Xbox One版は9月4日に本体と同時発売)。
一人称視点でのステルスアクションというシステムをしっかりと受け継ぎ,シリーズ初の日本語版もリリースされる最新作が,果たしてどのような仕上がりになっているのか,実際にPlayStation 4版をプレイしたうえでのレビューをお届けするので,じっくり読み進めてほしい。
一人称視点と暗闇の組み合わせが高い緊張感とスリルを生む
本作の主人公は,
「マスターシーフ」の異名を持つ盗賊,
ギャレット。彼は友人のバッソから依頼を受け,かつての弟子である女盗賊の
エリンと組み,とある貴族の屋敷に潜入する。
ギャレットとエリンは盗みにおける流儀の違いから袂を分かったのだが,久しぶりの再会であってもそこは変わっていなかった。静かに,できるだけ殺しを避けて目的を達成することが信条のギャレットは,派手に動き回り,殺しを厭わないエリンに度々苦言を呈する。
ギャレットは,生きるために盗むのではなく,盗むために生きるような,孤高の盗賊だ
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盗みには過剰とも思える自信を持っているエリン。ギャレットはそのあたりも気に入らないようだ
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2人がいがみ合いながら到達した部屋では,奇妙な儀式が執り行われていた。その雰囲気から危険を察知したギャレットは,盗みを断念してその場を立ち去ろうとするが,その瞬間に屋敷が崩れ落ち,エリンと共に闇に飲み込まれてしまう。
目を覚ましたギャレットは,街の様子がどこかおかしいことに気づく。バッソのアジトに行くと,彼は驚きの表情でギャレットを迎えた。ギャレットはあの屋敷での事件以来,1年もの間姿を見せなかったというのだ。
……というのが,本作のプロローグだ。メインとなるストーリーモードでは,バッソを始めとしたさまざまな人物から依頼される盗みをこなしつつ,1年前の事件の真相を明らかにすることが目的となる。
舞台となるのは,中世の雰囲気を残しつつ,産業革命の兆しも見せる巨大な街,「シティ」。2階建てや3階建ての似たような建物が密集し,狭い道には荷車や木箱といったものが無造作に置かれている。ミッションはまずお宝がある建物へ向かうことから始まるわけだが,こんな街の作りであるうえ,前述したように本作は一人称視点で展開されるので,自分が今どんな場所にいるかが把握しづらい。
さらには,街の要所要所に門が設けられており,しかもそのほとんどが閉められているため,目的地を示すアイコンの方向になんとなく歩いているだけでは,そこにたどり着くことができないだろう。盗賊らしく屋根の上を行くのはもちろんのこと,窓をこじ開けて侵入した部屋を通り抜け,反対側の道に出るといったことも必要になる。街というよりは
ダンジョンといったほうがぴったり来るという感じだ。
曲がり角の先に衛兵がいるかもしれない。物陰に隠れつつ,様子をうかがおう
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そして,盗賊であるギャレットは,当然のことながら,街の至る所を巡回している衛兵の目を避けて移動しなければならない。ここで重要になるのが,灯りのない場所や物陰などの暗闇だ。暗闇に身を隠してじっとしていれば,それこそ
「手の届きそうな」と表現したくなるぐらいの距離にならない限り,気づかれることはない。
画面左下に表示されている「ライトジェム」が光っていれば明るい場所,暗くなっていれば暗闇にいるということになる
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逆に,明るい場所だと遠くからでも見つかってしまうので,暗闇にいるときに衛兵が自分のいるほうへ向かってきたとしても,安直に逃げないほうが身のためだ。次に隠れるべき暗闇を確認してから,[○]ボタンで繰り出せるクイック移動を使って駆け込むか,じっとその場に留まったほうがいいだろう。
個人的にはこの
「留まってやり過ごす」というプレイが気に入った。衛兵が近づいてくると,一人称視点の迫力も相まって緊張感が高まるし,「さすがに見つかったか?」と思ったところで衛兵が戻っていったりすると,思わず安堵のため息が漏れてしまう。
暗闇にいれば,たいまつを持った衛兵がこの距離まで近づいても気づかれることはない
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さらに緊張感を味わいたかったら,衛兵の背後から近づいて,彼らの腰につけられた財布などを盗んでみるのがオススメだ。いつ振り向くかとビクビクしながら近づくだけでも一仕事だが,財布を盗むには[□]ボタンを一定時間長押ししなければならない。盗みの進捗度を示すゲージのスピードが遅く感じられること請け合いだ。
このような「あえて留まる」「あえて近づく」というプレイを続けていくところが,本作の面白さといっていいだろう。ほかのステルスアクションでも,敵を倒そうとすれば自分から近づかなければならないが,大抵の場合,背後をとってしまえば敵の無力化は簡単だ。だが,本作では,背後に立っただけでは終わらず,そこから財布なり宝石といったものを気づかれずに奪って,さらにその場を安全に離れることが要求される。
緊張感やスリル感は一段上だ。
明るい場所に置かれている金庫。モタモタしていると見つかってしまうかも,という思いが焦りを生む
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道具と特殊能力が盗みをサポートしてくれるが,正面切っての戦いは禁物
「盗賊」と聞いて「七つ道具」というキーワードを頭に浮かべる人もいるかと思うが,本作でギャレットが使う主なアイテムは
「ブラックジャック」「弓矢」「鉤爪」の3つだ。
ブラックジャックは,殺傷能力がない棍棒のような武器で,主に敵を気絶させるために使う。敵に気づかれないまま,背後から[R1]ボタンで殴りつければ一撃でダウンさせられるのだが,相手がこちらに気づいた状態からだと,数回殴って膝をつかせたうえで,ボタンの長押しから繰り出す一撃を当ててやっと倒せるといった感じだ。
こんな調子なので,正面切って戦えるのは1人が限度。2人ががりで来られると,なんとか倒せたとしても,体力を大きく削られることになるだろう。
あちらは剣,こちらは棍棒というだけでも不利なのに,2人でこられてはきつい
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続いて弓矢だが,こちらも戦闘よりは隠密行動時に役立つものだ。瓶を壊して敵の気を引いたり,離れた場所にある灯りのスイッチを操作して暗闇を作り出せたりする
「ブラント・アロー」,たいまつなどの火を消せる
「ウォーター・アロー」,特定の場所にロープをかけて,移動の手助けにできる
「ロープ・アロー」など,さまざまな種類の矢を状況に応じて使い分けることが重要となる。攻撃用の
「ブロードヘッド・アロー」も用意されてはいるが,結局の所は弓矢なので,相手に気づかれて距離を詰められてしまうと,とたんに使い勝手が悪くなってしまう。狭い路地や室内では,逃げながら矢を射るのも難しいのだ。
ウォーター・アローでたいまつの火を狙う。火が消えたことに気づいた衛兵が,また灯りを点けることもあるので,消すタイミングも重要だ
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鉤爪は完全に移動用のアイテム。壁に金網のような部分があれば,そこに鉤爪を引っかけてよじ登れる。とはいっても,いちいち装備する必要はなく,低い障害物を乗り越えるときと同じ[L2]ボタンで自動的によじ登れるので,あまり存在を意識することはないだろう。
ちなみにこの鉤爪は,物語の発端となった事件までは,エリンが使っていた。その時は「使うときに出る音が衛兵を呼ぶ」と嫌っていたギャレットだが,いざ自分のものになると使いまくりで,現金なものである。まぁ,現金でない盗賊などいないかもしれないが……。
そして,この3つのアイテムと同じくらい役立ってくれるのが,画面左下に表示されている水色の「フォーカスゲージ」を消費して使うギャレットの特殊能力
「フォーカス」だ。この能力は,初期状態だとハシゴや前述の金網など,ギャレットが移動可能な場所が光って見えるだけ(とはいっても,入り組んだシティの移動ではかなり重宝する)のものなのだが,ゲーム中に手に入る「フォーカスポイント」を使えば「戦闘時に敵の急所が表示される」「敵から一度に複数のアイテムを盗める」「ピッキングの精度が上がる」「物音を立てずに移動できる」など,さまざまな能力を追加できる。自分のスタイルに合ったものを身につければ,スムーズにゲームを進められるだろう。
フォーカスを使うと,登れる場所がハッキリと分かる……のだが,実はフォーカスを使わない状態でも,ぼんやりとは光っているので,ゲージを消費したくないなら,じっくりと目を凝らしてみるのもいい
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フォーカスポイントを使えば,鍵の内部構造を透視してのピッキングも可能になる
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“美学”を持ったプレイヤーこそが本作の真髄に触れられる
ここまで紹介してきたように,本作では,暗闇から暗闇へと移動しつつ,アイテムやフォーカスを使って敵の目を欺き,盗みを遂行していくのだが,正直な感想を言わせてもらうと,メインのストーリーをただ追っているだけでは,あまり「盗みをやり遂げた感覚」が湧いてこない。冒頭でも少し紹介したが,画面には次の目的地を示すアイコンが表示されて,それに従っていけばクリアできるようになっている。ご丁寧にも盗むべきお宝がしまわれている棚にアイコンが表示される場合もあるくらいだ。机や棚にある貴重品を失敬するといったことはできるのだが,これではマスターシーフどころかただのコソ泥である。
この世界では,ハサミや小型の望遠鏡といったものが貴重なようで,盗んでおくと装備品購入用の資金になる
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だが,一見ぬるく思える道中の至るところに,
本当のお宝への手がかりが隠されている。窓から漏れてくる住人の会話や,机の上に置かれたメモなどをしっかり確認していけば,そのありかが浮かび上がってくるはずだ。さらに,そんなお宝は,隠し金庫などのさまざまな仕掛けやトラップによって守られていることが多く,盗み出すのもそう簡単にはいかない。こういったお宝をしっかり頂戴したうえでクリアしてこそ「マスターシーフ」と言えるだろう。
男の独り言に耳を傾けてみると,意外な情報が手に入るかもしれない |
一見何の変哲もない絵画の裏に,隠し金庫のスイッチが隠されていることも |
そんな歯ごたえのある盗みをもっと楽しみたいなら,ストーリーモードのチャプター間で受注できるサブミッションをプレイするといいだろう。こちらは特定のアイテムを持っていかないとお宝の場所までたどり着けなかったり,お宝を手に入れるまでいくつかの建物に潜入する必要があったりと,手の込んだものが多くなる。報酬もいいものになっているので,成功したときの喜びがさらに大きくなるはずだ。
盗みの腕に自信が出てきたら,
「チャレンジモード」で世界のプレイヤーと競うこともできる。このモードは建物内の至る所に隠されたアイテムを次々に盗み,スコアを稼いでいくというもので,一定時間内に連続して盗みに成功すると「チェイン」となって,スコアにボーナスが加算される。さらに,衛兵の近くを通ることでもスコアが加算されるので,ハイスコアを狙うためにはギリギリでのプレイが要求されるのだ。
長々と紹介してきたが,本作をプレイしていて感じるのは,実に
ストイックなゲームだということだ。
最近のステルスアクションタイトルには,敵をバッタバッタと倒していくプレイスタイルも可能になっているものが多いが,本作でそれは難しく,あくまでステルスを貫かなくてはならない。また,ステージとなるシティの作りは複雑なうえ,ほとんどのミッションが夜の時間帯となっているため,見通しが悪く,何もないと思っていたところに実は通路が……といったこともザラ。うまく衛兵の目を盗んで屋敷に侵入し,隠し金庫を見つけ出したとしても,最後の最後でダイヤルのナンバーが分からず,泣く泣くそこを後にすることもある。悩んでいると勝手にヒントが表示されるといった親切な機能などないのだ。
ゲーム中,「いくら盗んだのか」と聞かれたギャレットが「金額じゃない」と返し,何をどのように盗んだのかに重きを置いてることを語るシーンがあるのだが,これこそが本作を体現していると言っていいだろう。
誰にとっても分かりやすい「クリア」だけに喜びを感じるのではなく,あえて困難に首を突っ込む
“美学”を持ったプレイヤーでないと,本作の本当の面白さには触れられないと感じる。このレビューを読んで興味を持った人は,ぜひマスターシーフとしてのプライドを持って,本作をプレイしてほしい。