2021年9月15日から10月15日まで,東京の広尾にあるチェコセンター東京(
関連リンク)にて
「チェコゲームの世界 Czech Game Show in Tokyo」と題したイベントが開催されている。
チェコといえば,Warhorse Studiosの「
キングダムカム・デリバランス」(Kingdom Come: Deliverance)やBohemia Interactiveの
「ARMA」シリーズ,Amanita Designの
「Samorost」シリーズといった著名なゲームスタジオと作品の名前が挙がるほどの,ポーランドに並ぶ東欧のゲーム大国だ。
そんなチェコの最新ゲームを,チェコセンターが主催するイベントで試遊できる(しかも入場無料で)のだから,ゲームファンにとっては最高のイベントと言えるだろう。どのようなイベントなのか取材してきたので,その模様をお届けしたい。
Amanita Designのファンは絶対に行くべき
まず最初に目に入ってくるのは,やはり
Amanita Designの展示だろう。Amanita Designが作るポイント&クリック型のアドベンチャーゲームは日本でも人気が高く,またAmanita Designの歴史が長いこともあって「子供のころから遊んでいる」という人も,意外と少なくないのではないだろうか。思い返すと,2003年に発表された最初の作品「Samorost」がブラウザでプレイできたのも,海外のゲームに直接触れる機会が乏しかった当時としては大きかったなあと感じる。
「Amanitaの壁」と呼ぶにふさわしい壁ができている
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Amanita Designは,ゲームの面白さもさることながら,その独特なアートスタイルに対するファンも多い。尋常ならざるこだわりをもって作られた(
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そしてなんと「チェコゲームの世界」では,そんなAmanita Designがこれまで制作してきた(あるいは制作中の)作品の,コンセプトアートや原画,あるいはメインデザイナーである
ヤクブ・ドヴォルスキー(Jakub Dvorský)氏による制作メモ(こちらはコピー)が展示されているのだ。これはもう「ファン必見」以外の言葉で表現することが難しい。
右写真のようなラフスケッチの展示も多い。スケッチの段階で見応えがある
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Samorostの主人公のぬいぐるみが展示されている。めちゃくちゃほしい……
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ヤクブ氏がREBOOT Developで行った講演でチラ見せした「創作手帳」のレプリカが展示されている。ゲーム制作の世界に進みたい人は絶対に見たほうが良いだろう(展示されているのは,限定盤に封入されていたものとのこと)
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新作「Happy Game」のアートも展示されている
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これまでの作品の,アーティストによるラフスケッチ。なんと生原稿。クリアファイルに入っているとはいえ,手が震える
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「チェコゲームの世界」はこれ以外にも見どころが多いのだが,なにはともあれAmanita Designのファンは絶対に足を運ぶべきだと断言したい。Amanita Designの最新作「
Happy Game」のデモ(Steamで配信されているものと同内容)もあり,このイベントではチェコのAudioブランド「DEEPTIME」のスピーカーにつながったPCでプレイできるので,来場したファンはぜひとも試遊してほしい。
Happy Gameのほか,Amanita Designの数タイトルが試遊できるPC。なかなか良いお値段がするこちらの外部スピーカーは,デザインはもちろん音も良い
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■優れたアドベンチャーゲームたち
さて,当然だが「チェコゲームの世界」はAmanita Designの作品だけを展示するイベントではない。それ以外の展示も見ていこう。
まず目を引くであろう作品は「
Someday You'll Return」。CBE Software制作によるウォーキングシミュレーター風の3Dアドベンチャーゲームで,カルトに取り込まれた娘を助け出す父親の探検を描いた(そして当然だが,そんな簡単な話では終わらない)作品である。
開発元であるCBE Softwareはもともと2人のチームで,現在ではここにもう1名が加わった合計3人による小さなチームだ
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本作はとにかくビジュアルが美しいが,この背景画像は現実のチェコ(モラヴィアの森)を踏まえて作られており,マップの随所にはQRコードが埋め込まれている。このQRコードをスマートフォンで読み込むと,実際の場所が表示されるという仕組みだ。本企画の担当者で,展示を案内してくれたチェコセンターの
ヤクブ・ヴァーレク(Jakub Válek)氏も「チェコ人だと『ああここか』と分かるような精密さ」と絶賛していた。
この作品は世界各地のゲームカンファレンスでさまざまな賞を受賞しているほか,ポーランドで開催されたゲームショウでも人気を博した作品だ。残念ながら日本語版が存在しない(英語版のみ)ため日本人ゲーマーにとってはハードルがやや高いが,Steamで販売されているので興味のある方はぜひプレイしてみてほしい。
Someday You'll Return
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前作となる「Attentat 1942」は,もともとカレル大学(Charles University)とチェコ科学アカデミー(the Czech Academy of Sciences)が制作した作品で,Charles Gamesが製品版を完成させた
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「Someday You'll Return」の隣に展示されていたのは,これまた知る人ぞ知る傑作
「Svoboda 1945: Liberation」だ。
この作品は
「Attentat 1942」を作った
Charles Gamesの最新作となるアドベンチャーゲームで,第二次大戦終戦前後のチェコを舞台としている。が,本作が前作ともども非常に興味深いのは,ゲームが直接その時代を扱うのではなく,あくまで「現代からその時代のことを調べる」というスタンスで作られているということだ。ゲームコンテンツとしては過去の事件をプレイするパートも存在するが,ゲーム全体としては現代と過去を行き来するようなスタイルで進行する。
本作については後日,別の記事で詳しく取り上げる予定だ。歴史を題材としたゲームに興味がある方であれば,必ずや楽しめる作品である……のだが,こちらも英語版しか存在しないため,日本語化されることを期待したい。
Svoboda 1945: Liberation
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■すでに有名になっているチェコのゲームたち
アドベンチャーゲームが続いた先に展示されているのは,モバイルゲームで有名な
MADFINGER Gamesの作品だ。
MADFINGER Gamesは,スマートフォンでFPSやTPSをプレイするのがまだまだ一般的ではなかった時代に,
「Dead Trigger」シリーズや
「SHADOWGUN」シリーズといった高品質のシューターで一世を風靡した開発会社だ。現代においては「PUBG」「Call of Duty」「Fortnite」といった大作がモバイルでプレイされるのも一般的なこととなったが,その先鞭をつけた開発会社と言える(
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また,MADFINGER GamesはVRアプリ制作にも乗り出していることで知られる。「
Monzo VR」は,VR世界の中でプラモデルを作れるという,プラモデルファンには非常に嬉しいアプリだ(
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「プラモデルは実際に作ってこそ……」と思われる向きも多いかと思うが,小さな子どもがいたり,猫を飼っていたりする家庭では,家で有機溶剤を使うことや,完成した作品を飾っておくことに困難を抱えることも多い。それらの心配がまったくないこのアプリは,間違いなく一定の需要がある作品と言えるだろう。
「Monzo VR」はPC版(Oculus版)が展示されており,本格的なVR環境での試遊が可能だ。
Monzo VR
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展示会場では,本作の画集(ドイツ語)が展示されていた(写真手前)
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なお,入り口に入ってすぐのスペースに「キングダムカム・デリバランス」のコーナーがあったが,これについてはいまさら本誌読者に詳しく説明する必要はないだろう。日本語化もなされているため,プレイにあたって言語の壁が問題になることもない。
ちなみに本作は続編が制作中という話が出ているが,こちらに関する新しい情報はなかった。ただ続編はフス戦争の時代が舞台となると言われており,歴史ファンはもちろん,「乙女戦争」ファンにとっても絶対に見逃せない作品となりそうだ。
■異世界転生チックな「The Last Oricru」
最後に紹介するのは,「
The Last Oricru」だ。
事前に持っていたゲームのイメージとしては「ちょっと『DARK SOULS』シリーズっぽい雰囲気のある三人称アクション」というところで,実際にそのイメージはそこまで違ってはいなかったのだが,随所に大きく異なるところも感じられた。
まず何より,本作はSFとファンタジーのハイブリッドだということだ。オープニングは「コールドスリープ装置の中にいる」状況でスタートするというバリバリのSFだが,正体不明の怪物のような存在によってハッチが無理矢理こじ開けられ,怪物的な何者かが持つ武器で攻撃される……という展開が待ち受けている。
筆者としてはこの段階で「え,ダクソっぽいゲームじゃなかったっけ? SF? SFなの? いやちょっと違うぞコレ」と,大いに楽しませてもらった。掴みはバッチリというやつだ。
その後,チュートリアルが始まったのだが,大雑把に言うと「お前らは死んでも蘇る体質だから,死んで覚えろ」的なことをわりとストレートに告げられるなど,「死に戻り」に対して非常にポジティブ(?)な姿勢が提示されていた。このあたり,どことなく日本の異世界転生もの(の一部)のノリを感じなくもない。
操作感覚や難度については,まだまだα版ということで何とも評価し難いが,「DARK SOULS」シリーズほど高難度ではないかな,というのが率直な感触だった(もっとも今後どうなるかはまったく分からない)。
ストーリーを重視した作品で,プレイヤーの選択によってストーリーの方向性が変わるということなので,そちらにも期待したい。現状ですでにダイアログはかなり凝っていて,ローカライズするとなると相当に手間がかかりそうだ,という印象は強かった。
またホットシート(1台のPCを使って複数人がプレイする)によるマルチプレイにも対応するとのことで,これにも大いに期待したい。いわゆる死にゲーは,複数人でワイワイ言いながらプレイすると,また違った楽しさがあるものだ。
α版ということで画面写真を直接撮影することはできなかった(記事で使用している画像は
[こちら]のニュースのもの)が,ぜひとも現地で実際に体験してみてほしい。
■ゲーム大国としてのチェコの認知を高めるために
チェコのゲームジャーナリストのパヴェル・ドブロフスキー(Pavel Dobrovský)氏による,チェコにおけるPCゲームの歴史を概説したパネルもある
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チェコのゲーム産業の発展はめざましい反面,日本語化までたどり着いている作品はそれほど多くないのも事実だ。また,実際に日本にファンが多いゲームであっても(それこそAmanita DesignやBohemia Interactiveの作品であれば特に),そのゲームがチェコ産のゲームだと意識されることは少ない。
そんななか開催された「チェコゲームの世界」は,「チェコのゲーム」あるいは「ゲームのチェコ」というイメージを高めるにあたって,非常に優れた展示になっているように思える。ヴァーレク氏もまた,「チェコと言うとクレイアニメなどが有名だが,ゲームもまたチェコを想起させる文化のひとつとして認知を高めていきたい」と語っていた。
一方,ヴァーレク氏の話を聞く限りでは,やはりチェコでも「ゲーム」は必ずしも文化的に高い地位を占めているようではないようだ。今回のイベントが成功することで,チェコに対するゲームのアピールともなることを祈りたいところである。
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[2021/09/13 20:09]